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要点をざっくり
- フランスで、急病で死亡した女性への救急対応が問題になっています。
- この電話を受けたオペレーターは、「誰でもいつかは死にますから」と電話を切ったというのです。
- この救急電話を受けたオペレーターは、なぜこのような対応をしたのでしょう。
フランスで問題になっている救急対応
フランスで急病を発症し、死亡した女性への救急対応が問題になっています。
女性が病院に搬送されたのは、救急電話をかけてから、およそ5時間後でした。
この救急電話をした女性の電話は、オペレーターに切られてしまい、その後、多臓器不全による出血性ショックで死亡したということです。
参照:TBSニュース
亡くなったナオミ・ムセンガさんは当時22歳で、公営救急医療サービス(SAMU)に激しい腹痛があると電話し、「死にそうだ」と訴えました。
オペレーターはムセンガさんの訴えにもかかわらず、救急車を派遣せず、医師が出張診療する案内番号を教えて電話を切りました。
オペレーターとムセンガさんとの会話
オペレーター :「どうされたんですか?」
ムセンガさん:「助けてください」
オペレーター:「どうしたのか言ってくれないなら、切りますよ」
ムセンガさん: 「とても痛いんです」
ムセンガさん:「死にそうです」
オペレーター: 「死んでしまうのですね。もちろん、誰でもいつかは死にますから」
ムセンガさん: 「お願いです、助けてください」
オペレーター: 「私にはできません。あなたがどう具合が悪いのかわかりませんから」
このオペレーターはナオミさんに医師に電話するよう伝え、救急車の代わりに医師を呼ぶ SOSメドゥサンの電話番号を教えて電話を切りました。
ムセンガさんは最終的には SOSメドゥサンに電話したものの、5時間待たされ、救急車で病院に運ばれ、亡くなりました。
遺族らは、電話での対応などを問題視していて、警察は救急電話の担当者が救護を怠った可能性があるとして調査を始めました。
政府が調査を行う
通話記録が発覚した後、ストラスブール大学病院は、ムセンガさんの電話を取ったオペレーターを一時的に停職処分にしたと発表しました。
オペレーターの通話記録には、同僚と冗談を交わしている声も録音されていました。
アグネス・ブジン社会問題・保健相は8日、ツイッターでこの事件に「強く憤っている」と発言し、社会事業全般監査局(IGS)に調査を要請したことを明らかにしました。
Je suis profondément indignée par les circonstances du décès de Naomi Musenga en décembre. Je tiens à assurer sa famille de mon entier soutien et demande une enquête de I’IGAS sur ces graves dysfonctionnements. Je m’engage à ce que sa famille obtienne toutes les informations .
— Agnès Buzyn (@agnesbuzyn) 2018年5月8日
また、フェイスブックでは、この事件の「真実と正義」を追及するページ「Justice pour Naomi Musenga(ナオミ・ムセンガに正義を)」が設立されました。
またツイッターでは、ハッシュタグ「#JusticePourNaomi(ナオミに正義を)」が拡散しています。
SAMUを「怠慢」と「人種差別」などと批判する声も出ており、フランスでは社会現象になっています。
原因は疲れ果てた医療現場
救急医療の専門家パトリック・ペロー氏は取材に対し、この事件は「緊急医療サービスが危機に瀕している表れ」だと話しています。
ペロー氏は、救急車の出動要請は1988年の800万件から現在は2100万件に増加していると説明し、救急への電話件数も3倍に増えていると語りました。
こうした状況で「疲れ果て、ストレスにさらされ燃え尽きてしまい、患者の苦しみから切り離されている」医療従事者がいるということです。
SAMUの元職員は、100件の電話のうち本当に急を要するのは10~20件で、その他は酔っ払っているか、不安か、誰かと話したいだけの電話だと話しています。
日本の救急医療現場
総務省消防庁は、救急車出動の必要性が低かった件数を2019年から集計することになりました。
救急車の出動は17年速報値で634万2千件に上り、8年連続で過去最多を更新していることから、このままでは日本の救急現場も破綻する可能性があります。
ここに驚くべき事実があります。
2014年の資料ですが
1年間で10回から19回、救急車を呼んだ人が1979人おり、この人たちだけで年間2万4072回も救急車を呼んでいる。50回以上も救急車を呼んだ人が231人もおり、年間で平均51回も救急車を呼んでいる。つまり、ほぼ週に1回は救急車を呼んだ計算になる。なんと、全国でわずか2796人が年間5万2799回も救急車を呼んでいるという驚愕の事実だ。
わずか2796人が年間5万回以上も救急車を利用 | ビジネスジャーナル
ビジネスジャーナルから引用
全国の2796人の人たちだけで、年間約600万件の救急車の出動のうちの5万回以上を要請しているという事実です。
また、軽症なのにタクシーがわりに救急車を安易に使っている人たちの存在です。
北海道でも、救急担当の医師が大量に病院を辞めたという事件がありました。
このままでは、日本でも「救急車をよんだけれど、オペレーターに電話を切られて助からなかった」という、同様のケースが起こリうる可能性は否定できません。
この事件は、対岸の火事とはいえませんね。